不確実性を避けるべきか

一万時間の法則は、成功の秘訣をわかりやすく説明する手段として活用されてきた。どんな分野であれ、一番になるために必死に努力すれば、成功する。数多くの調査が行われ、この考え方を支持しているにもかかわらず、依然としてこの法則では説明が不十分のようである。何よりこのアプローチの仕方、テニス、チェス、バイオリン、バスケットボールなど特定の分野にしか通用しない。それ以外の分野では、法則が破綻してしまうからだ。

成功は“ランダム

成功は“ランダム"にやってくる! チャンスの瞬間「クリック・モーメント」のつかみ方

  • 作者: フランス・ヨハンソン,池田紘子
  • 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
  • 発売日: 2013/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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不確実性を避ける方法はある。というよりも、大半の人間はこれを本能的に選択しているといえる。では、不確実性を避けながら成功する方法はあるか。これもある。それが1万時間の法則というものだ。平たく言えば、スポ根ドラマよろしく、ひたすら努力と根性で練習、練習、また練習を繰り返すのだ。本書では、不確実性の極めて低い世界、つまりゲームのルールが長期的に変わらない世界では、1万時間に及ぶ練習をすればそれなりに成功できるという1万時間の法則を紹介している。 

ただし、この戦略には欠点がいくつかある。

①競争が激化する

 人間は本能的にリスクアバースな生き物である。よってこの戦略を取る人間が多くなると必然的に競争が激化する。皆1万時間など当たり前のようにこなしてくる。故に、一般的に成功するためには人の3倍努力しないさいというような格言がまかり通るのだ。そして大半の人間が人の3倍努力した場合どうなるか?生まれつきの才能や適正などがどうしても差となってしまう。これは非常にリスクが高い。

②生活の質が低下する

 否が応でも競争に巻き込まれると、もうラットレースから逃れることはできない。ひたすら人より抜きん出るがために、寝る間を惜しんで努力せざるを得なくなるだろう。それでも、その努力の対象が好きであれば苦にはならないが。例えば、イチローなどの世界トップレベルのアスリートなどを見ると、依存症的にそのゲームが好きであることが窺い知れる(しかしイチローのドキュメンタリーを見ると、特にシーズン中などの私生活は大変そうだ)。が、それだけ生活を犠牲にして努力しても、やはり成功するのは一握りである。過当競争下におかれた企業で働くサラリーマンの生活が悪化するのも同じことである。

結局、リスクを避けようとすればするほど、そこには大衆が群がる。大衆とともに行動するのは安全のようだが、それなりのリスクと犠牲も必要となるのは確かだ。さらに、昨今のような情報ネットワーク社会では、ルールも瞬時に変われば、競争のスピードも乗数的に増してくる。結局は否が応でも不確実性の海に放り込まれる可能性が高まるため、その海を泳ぐための知恵をつけておいて損はないかもしれない。