あなたも株のプロになれる

市場に売買の技法というものがあり、それはいくつかのすぐれた山になってそびえている。そのたくさんの山の基本は、すべて分割売買である。自分はひとつの山を登りつつあった。しかし、他にもすぐれた山がいくつもあった。が、いまから他の山に登ろうとは思わない。自分の山だってなかなかよいではないか。

(中略)

しかし、知ることと身につけることはまったく違う。まず出来るようになることだ。知っていても出来なければ役に立たない。本を読んでひとつの山を知るとどうなるか。自分の身につけた売買が正しければ自信がつく。正しくなかったら直せばよい。とにかく山を知り、登っていかなければならないー。

読者のみなさんは、おそらく山を登りかけておられることでしょう。その道は分割売買以外にはない。分割売買でさえあれば、どんな道でも迷うことなく、踏み外す恐れもない。

しかし、決して平坦ではなく、胸突八丁の辛さもあるし、泣きたくなうりょうなこともあると思うが、耐えなければならない。そうすれば必ず上の段階に登れる。迷いの霧を過ぎれば、明るい太陽と美しい景色がみられるのだ。

あなたも株のプロになれる―成功した男の驚くべき売買記録

あなたも株のプロになれる―成功した男の驚くべき売買記録

 投資本の中でも数少ない本物の一つ。ふとしたきっかけで知る事になった一冊。本も人との出会いと同じで、一期一会だと痛感する。そして、良い本に出会えた時の喜びも、良き友を得た時と同じ喜びがある。

間違いなく本物だ。表紙を見ただけでもそれと分かる。まず、見た目が地味。ぱっと見、誰も買おうとは思うまい。そして、そのタイトル。いったい誰が買おうと思うだろうか。投資本と言えば”楽して儲かる”、”1億を稼ぐ投資法”、”勝率9割の投資法”などというセンセーショナルタイトルが必須のはずだ。なぜなら投資本を手にする大半の人の動機は別にプロになりたいわけではなく、単に投資で儲けて楽をしたいからだ。

さて、投資関連本では、大体2パターンのものが多い。

1つ目は、著者が編み出した投資手法を公開し、それと同じことをするように勧めるもの。このパターンは著者が過去に成功して億単位を稼いだことを担保として、その手法の普遍性を説いているわけだが、人まねで簡単に投資がうまく行くなら誰だってできるわけで、そもそもそのパターンがどの相場環境にあてはまるかの保証もない。単に、昨年までのアベノミクスのような大相場に運良く乗って儲けただけの話かもしれない。著者の売買履歴や口座を見ない限り、なんとでも言えるだろう。

2つ目は、メンタルに比重を置いた抽象的なもの。確かに、投資においてメンタル面は大きい。ただし、それだけで勝てるようになるかというとそうでもない。考えてみれば当たり前だ。サッカーを一度もやったことがない人が、メンタル面を整え、自身の欲や恐怖などを乗り越えたからといって、いきなり今日からプロサッカー選手になれるかというと、絶対になれないのと同じだ。プロでなければ稼ぐことができないのは投資の世界でも同じだ。

巷の投資本では、自分の投資法が、また億単位を稼いだことがいかに素晴らしいかの自慢、誇張のオンパレードで、まったく深みがないものが多い。そのような本に人生の大事な時間を取られるのは1億円失うよりも損失大だ。

一方、本書では投資の根本は技術にあるとする。技術は磨かなければならず、一朝一夕で勝てるようなものではないとしている。著者自身の投資法も公開してはいるが、決してそれが正しいとも言っていない。最終的には読者自身が自分なりの投資法を身につけることが重要だと突き放しているのだ。

ただし、一点だけ著者が絶対に必要だとしている点が、上記の分割売買である。分割売買とは、ポジションを幾つかに分けて取り、値動きに合わせて、つなぎ(反対のポジションを取ることで利益の一部を一旦確定すること)や増し玉(ポジションサイズを増やす)を行うことで頻繁にポジション調整を行うことだ。

著者ほどではないが、私も投資において、あらゆる失敗を経験してきた中で、分割売買の重要性には激しく同意する。つまるところ、我々は神ではなく、市場が今後どうなるかはわからないのである(だからといって経済や市場の勉強をしなくていいわけではないが。)。それを認めることができない人は投資の世界に足を踏み入れないほうがよい。

著者は44歳という遅さで投資を始め、小豆の投資に失敗し全財産を失った上、そのショックのあまり職場で事故に遭い、片足を失っている。会社で次長に昇進したばかりだったが、障がい者ということで事実上会社から追い出されている。それでも諦めずに再起し、最終的には十数億を株で稼いでいる。その凄まじい人生に頭が下がる思いだ。本書ではそういう著者の恥部もありのままにさらけ出しており、まったく気取るところがないし、成功を自慢することもない。厳しい言葉からも読者への愛情が滲み出ているのは、そのような苦労を乗り越えてきたからこそなのだろう。