べき乗則

今日我々はいまだに大きな戦争や革命に苦しんでいるが今では我々は、古代の人々の神に対する信仰がもたらした超自然的な慰めに頼らずに、それらと立ち向かっている。我々は、歴史は個人が個人として行動することによって作られ、戦争を導くものも平和を導くものもすべての人々のなかに存在し、そして歴史の大きなうねりは、個人の行動からなる神秘の海のなかから絶えず現れ、我々を押し流すのだということを知っている。このうねりが避けようのないものだということが分かっていても、誰も自分が安全で幸せだと思うことはない。しかしこのことは、混乱した人類の歴史は人間の危険な狂気の産物ではなく、それは通常の人間の性質と単純な数学の産物であるという、より広い観点からの理解を導くための、少なくとも第一歩にはなる。

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

 

近代以降の戦争の歴史をロスチャイルド陰謀論等に求める前に読んでおきたい一冊。

著者によると、大小の戦争勃発という歴史的現象が、地震や山火事の発生のメカニズムと同じく、非平衡統計物理学の観点で説明できるとしている。

ポイントは自己組織的臨海状態さえあれば、それが地震であろうが、戦争であろうが、また疫病の伝染であろうが、その規模と頻度が同じ法則(べき乗則)に従うということだ。そして、それらの事象が発生する原因はその規模の大小に関わらず常に同じ(フラクタル)であるとする。

これが事実であるとすれば、もし人類が自己組織的な行動を続けるかぎり、世界大戦のような大きな戦争は今後も必ず発生することになる。それは、株価が大暴落を避けられないのと同じ理屈だ。おそらくこれはインターネットによって張り巡らされた高度な情報ネットワークについても当てはまるだろう。それが引き起こす事象についてはこれから歴史が証明するはずだ。

本書を読めば、相場が決まって小さな調整を繰り返しながらゆっくりと上昇(自己組織化)後、突然暴落するという物理現象が非常によくわかる。

ジョージ・ソロスやジョン・ポールソンなどが買いではなく、空売りで一気に名を馳せた理由もここにある。もし、相場が臨界状態にあると考えるならば、空売りで一攫千金を狙ってみることだ。

ただし、問題は相場が臨海状態にあるからといって、必ずしもリーマンショックや歴史上の恐慌のような崩壊が起こるとは限らないので注意が必要だ。むしろ相場の変動率がべき乗則に従うのなら、そのような大変動が起きる頻度は極めて少なくなるのだ。結局、そのような局面を予知できないのは、地震の発生が未だに予知できないのと同じということなのだ。