リスクを制するものは投資を制す その②

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以前の記事で、機関投資家などがよく使っているといわれているものにVAR(Value at risk、バー、バリューアットリスク)というものがあることを触れたが、個人投資家にもこの概念は役に立つこともあると思うので少し説明しておきたい。

細かい計算式などはこちらバリュー・アット・リスク - Wikipediaを参照していただくとして、VARとは、要は、一定期間内の投資における、ある任意の確立(confidence level)の中での最大損失はいくらに納まるかというのを統計的に定量化したものだ。

なんのこっちゃさっぱりわからんと言う方は以下の図をご覧頂きたい。市場の動きがまったくランダムであることを前提に投資活動を行うと、長期的にその投資における利益と損失の分布は以下のような標準偏差に近い形なるだろう。

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例えば、あなたが100万をドル円のオープン価格で買い、その日のクローズ価格で手仕舞うということを機会的に1年間繰り返したときのVARが1万円だったとしよう。それはつまり、あなたのその1年間の投資活動における各1日の損失額は99%の確立で1万円以内に収まるということを意味している。残りの1%は1万円を超える額で、金融危機などで引き起こされるアブノーマルな市場の動きによる損失を意味する(このような損失リスクをテール・リスクという、赤い部分が尻尾(テール)に見えるため。)

実際に、ドル円で2008年9月から2013年4月あたりのデータで上記のケースを前提にVARを計算すると、標準偏差0.007×2.3(cofidence level 99%) × 1,000,000 = (約)16,000となる。つまり100万円を日本市場がオープンするのと同時に買い、NY市場のクローズで売るというのを毎日2008年9月から2013年4月まで繰り返した時に、1日で被る損失額の99%は16,000円以内に収まるという結果だ。

機関投資家は通常こういう指標を目安に、リーマンショックのような危機に対応しようとしているのだ。つまり、この例だと、損失額が16,000円以上になる場合に損切りしたり、ポートフォリオを見直して、危機を乗り越えるというわけである。実際のポートフォリオは当然ドル円だけでなく、様々なアセットの組み合わせになるので、計算はもっと複雑となる。組み合わせによるリスク分散効果を加味しなければならないからだ。

個人投資家にとってこれがなんの役に立つの?ということだが、まぁご自身でいつも損切りラインを合理的に決めて逆指値を置いている場合はあまり意味がないだろう。ただ、もし損切りラインを置き忘れた、ディーラーのサーバーがダウンした、週末持ち越しをしていていつも週末が落ち着かない等という場合、参考までにVARを認識していれば結構落ち着いて対応できるのではないだろうか。

為替はよく危険だ、リスクが高いなどと言われるが、実際に定量的にデータを出してみると以外に大したことがないことに気づくだろう。

ただし、当然1%ではあっても実際にVAR以上の損失が発生する確率(テール・リスク)は厳然と存在するわけで(しかもその損失額は時に考えられないくらい大きななものになり得る。)、日々のリスク対策は当然必要である。これまで破綻した金融機関のほとんどがテール・リスクにやられた場合が多いのが事実である。

ちなみに、上図の損益分布には通常、尖度(Kurtosis)と歪度(Skewness)という統計学上の指標があり、これを見るだけで、だいたいその投資家の実力が見えることがある。これについてはまたの機会に触れたいと思うが、まずはごご自身のトレードなり投資の損益分布をエクセルなどを使って見てみると、新しい発見があって面白いと思う。